大判例

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福岡高等裁判所 昭和41年(う)844号 判決 1966年4月22日

被告人 大島輝巳 外一名

主文

原判決中被告人真田昇の有罪部分を破棄する。

被告人真田昇を懲役一年六月に処する。

被告人大島輝巳の本件控訴を棄却する。

理由

被告人大島輝巳の本件控訴の趣意は、弁護人山中唯二提出の控訴趣意書記載のとおりであり、被告人真田昇の本件控訴の趣意は、同被告人および弁護人石橋鞆次郎提出の各控訴趣意書記載のとおりであるから、ここにこれらを引用する。

被告人大島輝巳の弁護人山中唯二の控訴趣意第一(事実誤認)について

所論は、原判示第一の兇器準備集合について、被告人大島は、当日熊本県長洲港にゴルフをしに行つたもので、その際対立抗争関係にあつた石井一郎等が熊本県長洲港から海路島原方面に逃れんとする情報を知つていたことはなく、右石井等に対し先制攻撃を加え同人等を殺傷する目的をもつていたこともなく、猟銃等の兇器の準備してあることも知つていなかつたものである、というのである。

しかしながら、原判決挙示の証拠ことに原審相被告人篠原克文の検察官に対する昭和三七年八月二三日付供述調書、岡松正幸の検察官に対する同月二一日、二二日、同年九月三日付各供述調書によれば、被告人大島は、当日熊本県長洲港に行つた際、対立抗争関係にあつた石井一郎等が熊本県長洲港から海路島原方面に逃れんとする情報を知り、右石井等に対し先制攻撃を加え同人等を殺傷する目的をもつており、猟銃等の兇器の準備してあることを知つていたことを認めることができ、右原審相被告人篠原克文、岡松正幸の各供述調書は十分信用することができる。そして、被告人大島は、検察官に対する昭和三七年八月二四日、三一日付各供述調書では、当日ゴルフに行つたと弁解し、原審公判廷においては、狩猟に行つたと弁解しているのであるが、右弁解が転々としていることや、原判決挙示の証拠によつて認められる、当時石井一郎一派と被告人大島が詰めていた深田典之一派とは深刻な対立抗争関係にあり、自動車四台に一二人が分乗してゴルフや狩猟に出かけるような情勢ではなかつたことを考えると、被告人の右弁解は信用し難い、論旨は理由がない。

同第二(量刑不当)について

そこで、本件記録および原審において取り調べた証拠によつて考察するに、被告人大島の前科、本件犯罪はいずれも典型的な暴力事犯であること、その態様その他諸般の情状を総合すると、所論の被告人大島に有利な諸点を考慮しても、被告人を懲役八月、懲役一年一〇月等に処した原判決の刑の量定は重過ぎることはなく、論旨は理由がない。

被告人真田昇の控訴趣意中事実誤認の主張および同被告人の弁護人石橋鞆次郎の控訴趣意第一(事実誤認)について

まず、所論は、原判示第八の一の監禁について、被告人真田は、柴田守男に仕事を仕込んでくれとその母から頼まれており、当日柴田が深田典之方で働くことを承諾したので、柴田を深田方に連れて行つたものであり、その後岡松正幸が柴田を木に縛りつけたことは知らないので、柴田を監禁したことはない、という。

そこで、検討するに、原判決挙示の証拠によれば、被告人真田、原審被告人山下勲、同八児弘治、岡松正幸は、柴田守男が深田典之方で自動車運転手として働くことを約束しながら勝手にやめたことに腹を立て同人を深田方に泊り込みで働くよう脅迫しようと話し合い、当日午後八時二〇分頃右被告人ら四名で自動車で柴田方に行き、柴田をその意に反して連れ出し、車中で岡松が「一寸家まで来い。今から吊し上げじや。」といつて脅迫し、深田方に連行し、その後岡松が柴田を木に縛りつけ、原審相被告人山下がこれを解き、ついで午後九時三〇分頃被告人真田は深田方を出たが、柴田は翌朝まで原審相被告人山下、同八児によつてその就寝する深田方八畳の間に就寝させられたことを認めることができ、被告人真田が岡松が柴田を木に縛りつけたことを事前に知つていたことを認めるに足る証拠はない。以上の事実をみると、被告人真田は、柴田を少くとも翌朝まで監禁することを共謀したのであるから、岡松が柴田を木に縛りつけたことを事前に知らず、同夜深田方に泊つていなかつたにしても、柴田に対する翌朝までの監禁について共同正犯の責任を免れない。論旨は理由がない。

つぎに、所論は、原判示第九の恐喝について、被告人真田は原判示第九のように原審相被告人八児弘治、岡松正幸と共謀して阿部孝雄に脅迫を加えたことはなく、原判決は、被告人真田、原審相被告人八児、同松(以下被告人真田外二名という。)は、阿部に夕顔レストラン、久保山パーマネント屋、九州電力株式会社のし尿汲取の権利(一箇月の汲取料合計金九、二〇〇円相当)を深田五月経営の福清社に譲渡することを承諾させて、同社に財産上不法の利益を得させたとしているが、阿部が福清社が右三箇所の汲取をすることを承諾したのは、月金一〇〇、〇〇〇円の汲取料の忠隈炭坑の汲取を福清社がせず、阿部にさせることになつたからであつて、福清社は財産上の利益を得たものではなく、また、阿部が右三箇所の汲取を福清社がすることを承諾しても、右三箇所と福清社とが汲取契約をしない限り、福清社は財産上の利益を得たものとはいえない、という。

そこで、検討するに、原判決挙示の証拠によれば、被告人真田は原判示第九のとおり原審相被告人八児、岡松と共謀して阿部を脅迫したことを認めることができる。そして、原判決挙示の証拠によれば、阿部は被告人真田外二名の右脅迫により夕顔レストラン、久保山パーマネント屋、九州電力株式会社の汲取を福清社がすることを承諾したのであるが、阿部が右三箇所の汲取をしていたのは、継続的汲取契約をしていたのではなく、月決めでその都度汲取契約をし長年これを繰返していたものであることを認めることができ、原審証人田代キヌエ、同岡田多美雄の各供述、久保山かずよの司法警察員に対する供述調書によれば、右脅迫後福清社において右三箇所の汲取をしているのであるが、久保山パーマネント屋こと久保山かずよが福清社に汲み取らせるに至つたのは、その経営者深田五月が得意先であつたからであり夕顔レストランこと田代キヌヱ、九州電力株式会社が福清社に汲み取らせるに至つたのは、阿部が汲み取らないといつたので福清社に汲み取らせたものであることを認めることができる。以上の事実をみると、阿部が福清社が右三箇所の汲取をすることを承諾したからといつて、それによつて福清社と右三箇所との間に汲取契約関係が生ずるものではないから、福清社が財産上の利益を得たとはいえず、また、福清社が右三箇所の汲取をするに至つたのは被告人真田外二名の右脅迫によるものではないので、福清社は被告人真田外二名の右脅追によつて財産上の利益を得たとはいえない。したがつて、被告人真田外二名が福清社に財産上の利益を得させたとする原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があり、原判決は破棄を免れない。

また、所論は、原判示第一二の暴力行為等処罰に関する法律違反について、被告人真田も原審相被告人山下勲も中村竜雄に暴行を加えはしたが、被告人真田には原審相被告人山下と右暴行の共同実行の意思はなかつたものである、という。

しかしながら、原判決挙示の証拠によれば、被告人真田が中村竜雄に対しし尿を汲み取らせなかつたことに抗議しているのを山下も聞きながら、被告人真田と原審相被告人山下とは相前後して中村に暴行を加えたことを認めることができるので、被告人真田と原審相被告人山下には右暴行の共同実行の意思があつたものと認められる。

論旨は理由がない。

さらに、所論は、被告人真田は原判示第一三のように脅迫したことはない、という。

しかしながら、原判決挙示の証拠および桐原時枝の司法巡査に対する供述調書によれば、被害者が被告人真田が、勝手にし尿を汲み取つたものと誤解したことに端を発したとはいえ、原判示第一三のとおり脅迫したことを認めることができる。論旨は理由がない。

そこで、被告人真田昇のその余の控訴趣意および弁護人石橋鞆次郎の控訴趣意第二(いずれも量刑不当)に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九七条、第四〇〇条但書により原判決中被告人真田昇の有罪部分を破棄し、さらに次のとおり判決し、同法第三九六条により被告人大島輝巳の本件控訴を棄却する。

(罪となるべき事実)

被告人真田昇、原審相被告人八児弘治、岡松正幸は、深田典之が昭和三八年一〇月一日から同人の妻深田五月名義で始めたし尿汲取業福清社の業務に携つていたが、同年一一月七日午前一〇時頃、福岡県飯塚市大字菰田四六六番地深田方において、同社の業務拡張の為暴力手段に訴えてでも他の同業者のし尿汲取を同社のために横取りしようと考え、三名共謀のうえ、同業者阿部孝雄に対し、まず同家玄関先で、岡松が「あんたが阿部さんか。」と言つて同人の胸を掴んで足払いをかけて倒そうとし、原審相被告人八児が「お前共栄自動車を泥棒みたいに何故取つた。」と言つて同所横にあつたブロツク煉瓦を掴んで今にも殴りかからんばかりの気勢を示し、さらに、被告人ら三名で同家裏庭に阿部を連行し、縁先に阿部を突きとばし、岡松が大工用前打を阿部の肩に当てて「生命が惜しいか、得意が欲しいか。」と言つて右前打を振り上げ、同人の頭上に振り下ろすような態度を示したところ、被告人真田が「それまで。」と言つて岡松を制止し、「くどいことはいわん。夕顔、久保山、九州電力の三箇所をくれ。」

と言つて、生命、身体に危害を加えかねない気勢を示して、脅迫したものである。

(証拠の標目)<省略>

(法令の適用)

右判示事実および原判示第八の一、第一二、第一三の事実に法令を適用すると、被告人真田の原判示第八の一の行為は、刑法第二二〇条第一項、第六〇条に、右判示行為、原判示第一三の行為は刑法第二二二条第一項、罰金等臨時措置法第三条(いずれも懲役刑選択。)に、原判示第一二の行為は暴力行為等処罰に関する法律第一条、罰金等臨時措置法第三条(懲役刑選択。)に該当するが、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから同法第四七条、第一〇条により重い監禁罪の刑に法定の加重をし、その刑期の範囲内で、被告人を懲役一年六月に処し、刑事訴訟法第一八一条第一項但書により原審における訴訟費用は被告人に負担させないこととする。

そこで、主文のとおり判決する。

(裁判官 塚本冨士男 至勢忠一 矢頭直哉)

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